大豆と発酵 自然が導く未来への「バランス」



漁網からバイオティクスへの転換

我社のAgriMax®もImmuBalance®も、あまり一般的には知られていない素材かもしれませんが、この2つの素材にすごいパワーがあるからこそ、ニチモウバイオティックス株式会社が今まで業界で生き残ることができていると思います。

弊社は昔「日本魚網漁具株式会社」という社名で、魚を取る網を提供する会社でした。魚を取る「網」の会社だった我社が大豆に着目をしたきっかけは、200海里の漁業水域が設定され、沿岸漁業が大きな打撃を受けたことです。漁網が売れなくなる時代を目の当たりにして、これから会社をどうするかということで、「獲れないなら、育てる」と養殖に力を入れて行くことになりました。

魚の養殖事業に関して、一番の基本で一番大事なポイントとなるのは餌をどうするかということです。当時の一般的な方法は、イワシのような安価な魚をミルにして、価値のある魚を育てるというものでした。イワシも漁獲量が安定するわけではないので、結構値段が乱高下します。同じタンパク質なら値段の安定した植物のタンパク質を利用できないかという発想になり、大豆の豊富なたんぱく質に着目して研究をスタートさせたのです。

魚の腸はすごく短いので、大豆をそのまま与えると消化吸収ができません。そこで、麹菌の発酵の技術を取り入れ、大豆を一回発酵させることで、タンパク質をペプチドとアミノ酸に分解して、消化吸収ができるようにすることを考えました。大豆のイソフラボンには配糖体という糖がついています。それが発酵することによって、アグリコンになるのですが、人間にとってはアグリコンの方が吸収しやすい。そこがベースになり、AgriMax®の商品化に至っています。

AgriMax®という商品名は、イソフラボンの含有量が高いということと効能が幅広いことから、アグリコンにMAXという言葉を付け足してつくりました。

AgriMax®は、多数の大手企業に原料として供給しています。自社販売ルートでは、クリニック向けの自社ブランドの専売商品を200ヶ所以上のクリニックに直接卸しています。クリニック以外では200ヶ所の漢方相談薬局にも、自社ブランドの商品を直接卸しています。また、ネット販売も専用の商品を展開していますので、主に4つの販路でお客様のニーズを掴んでいます。

開発当初から更年期の女性の症状に着目していました。女性は更年期の前後に、急にエストロジェン機能が低下することによってエストロゲンの分泌が少なくなり、ホットフラッシュとかイライラといった様々な特有の症状が出てきます。イソフラボンはエストロジェンと骨格が似ているためエストロジェンの受容体に結合できるという、イソフラボンのエストロゲン様作用に着目しました。以前からHRTという ホルモン代替療法がありましたが、ホルモン代替療法は副作用のリスクが高く、ホルモン療法を希望しないという方も多かったのです。イソフラボンはエストロゲン様作用を持ちながら、そのような強い副作用はみられないという点が、更年期の女性の向けた商品の製造販売に繋がりました。


生命における幹細胞の存在とは

広島の都市伝説で、原爆が投下された後、味噌蔵に逃げた人がいて、蔵の中にあった味噌を食べて飢えをしのいだ人達の被爆症状が非常に軽かったという話が伝わっていて、味噌は放射能の副作用を抑制するのではという説があります。昔、ソ連のチェルノブイリ原発の事故の時には、味噌がかなり輸出されていました。広島大学の原爆放射能医学研究所の伊藤明弘先生が、味噌と放射線の予防効果をずっと研究されていました。

1999年に東海原発の臨界事故があった時期に開催された学会で、伊藤先生が味噌と放射線の関係とその予防効果というテーマでの研究を発表され、かなりの数の取材を受けておられました。私はその学会で、伊藤先生が味噌を使って進めておられる研究について、我々のもっているImmuBalance®という無塩味噌に近いものを使った共同研究をさせていただきたいとお声掛けをしたのです。伊藤先生は、当時ずっと腸の幹細胞に着目して研究しておられたので、腸の幹細胞についてはある程度の研究データが存在していました。

そこで、ImmuBalance®を食べさせるグループと食べさせないグループに分けたマウスに放射線を照射した後骨髄移植をし、幹細胞が定着できるかどうかで幹細胞の増幅を判断するというのが、共同研究の提案内容でした。


時期とタイミングが生んだ個性

幹細胞に関しての研究は、免疫の研究と同時に進めていました。幹細胞の研究に関して、早い時期に特許申請は出したものの、実際に許可が降りるのに10年かかりました。2011年にようやく特許が下りた時は、福島原発事故の後のタイミングでした。その当時は状況を考えて、あえて幹細胞についての効果を謳った販売や宣伝はせず、アレルギーをメインに展開することになり、最近ようやく落ち着いてきたので、幹細胞の話や放射線の話ができるようになりました。

ちなみに、発酵することによって、植物乳酸菌も増殖するので、ImmuBalance®にも整腸効果はあります。とはいうものの、乳酸菌を取り扱っている大手メーカーがすでにたくさん存在しています。我々のような後発の会社が市場に入り込む隙間もありません。大手メーカーが手掛けている部分は、大手メーカーにおまかせして、まだ手が付けられていない分野を我々がやろうということで調べたところ、乳酸菌市場におけるプロバイオティクスのほとんどは液体培養です。ということで、我々のImmuBalance®は固体培養です。そして商品の開発面でアレルギー、アトピーに集中しました。子ども向けの臨床試験もやりました。エンドユーザーにとっての選択肢が広がるように市場として共存共栄を目指し、我々らしい研究開発を進めています。


ニチモウバイオティックスが考える未来

夢はたくさんありますが、まず伝統的な日本の発酵技術、発酵食品文化を広げたいと思っています。

発酵には無限の可能性とパワーがあると思います。発酵することによって栄養素が吸収しやすくなり、機能性も上がります。今、医療費は国の財政にとって爆弾のような存在だと思うのですが、大豆のパワーで、少しでもその医療費を下げていくことができればと願っています。

美味しく食事をいただきながら、病気にならずに美味しく元気に暮らす。それでなおかつ医療費も削減できるとなれば、非常に良い循環になるでしょうし、そうなってほしいと思っています。

私は医者でもありますので、その立場から言うと、予防医学は非常に大事だと思っています。患者さんを診るということは、患者さんが減らないということです。未病という言葉がありますが、病気にならない、病気になる前にちゃんと体を整える 、治してあげることが未病という考え方です。普段の食事から気をつけて、食べ物を摂取していることで健康長寿に繋がるという、医食同源という言葉の新しい形を実現できればと思っています。