楽しい毎日は「健口」な暮らしから
L8020乳酸菌を見つけるまでのこと
乳酸を産生する菌を、総じて乳酸菌といいます。いろんな種類の乳酸菌がいます。僕たちが使っているL8020は、乳酸菌の中でも乳酸桿菌と言われるものです。同じ乳酸桿菌として、ラクトバチルス(lactobacillus)というものもあります。また、口腔レンサ球菌(ストレプトコッカス)と言われるものや、例えばビフィズスバクテリウムのように、嫌気性の中で生きていく、腸に非常に多く存在している菌もいます。それぞれどんな菌でどんな役割と解説していくと終わらなくなるので、今回はL8020乳酸菌のことに絞ってお話します。
L8020乳酸菌の特徴をお話するにあたって、発見のきっかけと経緯が重要だと思い、少し昔のことですが僕が診療にあたっていた現場での経験と気付きの話から始めたいと思います。
僕の専門は、歯科補綴学(しかほてつがく)です。歯科補綴学というのは歯科の中でも臨床系の分野で、歯を削って冠をかぶせたり、歯の抜けたところにブリッジを入れたり、もっと歯が抜けた人は入れ歯を作るなど、歯を整え補うことを主な仕事としています。
所属している広島大学附属の大学病院の医局には出張病院があります。僕は先天的な障害を持ったお子さんが多い障害者施設での診療を担当し、また精神病院でも長い間診療にあたっていました。施設での診療は、大学病院の患者さんの診療と違う点があり、それがL8020乳酸菌を発見するきっかけとなりました。というのも、大学病院では、例えば患者さんに治療でブリッジを入れると、そのまま10年15年と普通に使ってくれます。しかし施設では、診察してちゃんと治療したはずなのに、患者さんはセルフコントロールが難しいのか、2、3年したらまた「先生、ここが悪くなった」と言って診察にこられます。それじゃ、そういう患者さんのために何かできることはないかと思ったんです。
僕は臨床系ですが、生化学の教室でデンチャープラークと言って入れ歯にできるプラークの研究をしていました。研究をしている中で、口内フローラに含まれる乳酸菌と菌が増殖する速度に着目しました。乳酸菌にした理由は、日常食べる食品には乳酸菌を含むものがありますし、障害のある人でも食べるだけなら簡単ではと思ったからです。
菌が増殖することは皆さんご存じだと思いますが、1個の菌が10時間で1000倍を超える数に増殖するんです。例えばマウスウォッシュなどで一時的に菌数を減らすだけでは、この増殖速度に対して歯が立ちません。ということは、裏を返すとプロバイオティクスのように、口の中にも良い菌を取り込んで、それを増やしてやれば、むし歯や歯周病のリスクを減らせるのではないかと考えたわけです。
ヒト由来の乳酸菌とは
L8020はヒト由来、特に人の口由来の乳酸菌です。その視点からの特徴としては、以前、歯茎の粘膜細胞を培養して、そこにL8020乳酸菌と他のヨーグルトから取ってきた乳酸菌を付着させ、付着能、つまりどの乳酸菌が一番細胞にくっつくかという試験をやってみました。結果は、L8020乳酸菌が一番でした。この試験の結果からみても、L8020は口腔内にかなり留まりやすいと推測できます。
ヨーグルトに使われる乳酸菌は、一般的には、健康な乳幼児の糞便から取った乳酸菌です。この理由は、腸に作用させるためには、腸由来の乳酸菌が有効だからです。僕は今回口で乳酸菌を作用させたかったので、口腔内にいる乳酸菌、しかも強い乳酸菌を探して分離して使用する必要がありました。どういった属性の人から乳酸菌を取ってきたらいいかと考えた時に、たまたま一人の患者さんに出会いました。精神病院で検診に来られた三十歳の女性です。彼女は自分では全く歯磨きしない人で、口の中はすごく汚いのですが、驚いたことにむし歯が一本もなかったのです。
むし歯のない人と乳酸菌の関係
むし歯がない人は一定数おられ、その理由も様々です。例えば、唾液が多い、歯が強い、あるいはむし歯菌は母子感染するので、むし歯菌を持っていない人もいます。そしてむし歯になったことがない人は、その自覚があります。そういうむし歯になったことがない人を探して、その人の口の中から乳酸菌を取ってくるのはどうだろう。ひょっとしたらむし歯菌にも歯周病菌にもすごく強い効果を示す、そんな乳酸菌がいるのではないかという仮説を立てました。
とにかく「歯磨きをしたことがないけれども、むし歯になったことがない人」を3年ほどかけて片っ端から探しました。「知り合いでむし歯なったことない人がいたら紹介して」と学生にも声をかけました。最近は、例えば二十歳ぐらいの人は予防の概念が強いから、20人いれば20人むし歯なったことがないと言って手をあげます。若い世代の方は、定期的に歯医者に通って、歯のクリーニングをする人もおられますし、むし歯になったことがないという人は結構多いんです。ただ、人口全体から見ると、むし歯のない人はまだ少数派で、しかもむし歯がなくてもそういう人は唾液をいただく対象ではないのです。僕たちの世代は、小学校の時に生徒が1000人いたら、そのうちむし歯になったことがない小学生は一人か二人です。僕ら世代の人たちだと、むし歯ゼロの人なんて中々いません。僕が探していたのは、むしろそういう人なのです。
ヨーグルトに使う乳酸菌のお話に戻りますが、今回お話しているL8020乳酸菌は、たまたま子供から見つかった乳酸菌です。ただ、研究段階では、普段あまり歯磨きをしてないのにむし歯にならない人を探して、その人から唾液をもらいました。そこから42菌株ほど乳酸菌を分離して、その中で歯周病菌に対して殺菌効果が非常に高い株をピックアップしました。その後、むし歯菌に強い作用をもつ菌、そして口腔カンジタというカンジタ菌、口の中のカビの一種があるのですが、歯周病菌・むし歯菌以外にそのカンジタ菌にも効く菌を探して、3種類ほど強い菌株YU3 YU4 KO3と言う株を見つけたんです。これでヨーグルトを作ってくれる会社を探さないといけなかったのです。四国乳業さんというヨーグルトを作ってくださる会社とお話をした時に、菌を選びました。YU株はラクトバチルスカゼイ、KO株がラクトバチルスラムノーザスに分類される菌です。ラムノーザス菌というのは胃酸で死にません。カゼイ菌は死にますが、ラムノーザス菌は胃酸で死なずに腸まで届きます。乳業会社としては、ラムノーザス菌を使いたいということに決まりました。
「L8020乳酸菌」という名前が生まれた瞬間
四国乳業さんに最初に話をして、試験をやってと言う過程を経て、2年越しで最初の製品化に至りました。初めてお話に伺った際に、「こんなにいい乳酸菌、ぜひ使いたいです」と仰って頂きました。その時に「でも、このヨーグルトができたら、どういう名前にしたいですか?」と会社が意見を聞いてくださいました。
その時に「8020ヨーグルトにしたい」って言ったんです。ちょうどその頃、日本歯科医師会の8020運動で、80歳で20本の歯を残そうという取り組みをしていました。その思いを消費者に届けたいなと思って、たまたま口にした「8020ヨーグルト」が名前になりました。そこからL8020乳酸菌という名前が生まれたんです。この8020という名前をつけるにあたっては、日本歯科医師会にお願いに上がりました。8020財団というところに「ヨーグルトに8020という名前を付けたいので、そのヨーグルトに使う乳酸菌に、8020にちなんでL8020と言う名前を付けさせてほしい」とお願いに上がって、「よいですよ」と許可を頂きました。それで現在もL8020という名前を使っています。
新しい形のプロバイオティクス
近年、店頭で見かける乳酸菌が入った食品も、かなり品数もバリエーションも増えてきました。傾向としては、プロバイオティクスと言って、乳酸菌とかビフィズス菌が必要とするものを摂取して、腸内フローラを改善しよう、あるいは免疫機能を刺激しようという概念の製品が多いように思います。
ここで一つポイントなのですが、L8020乳酸菌も含め、食品に含まれる乳酸菌の多くは、生菌(生きている菌)ではありません。乳酸菌が使われている食品のパッケージに「シールド乳酸菌」と書いてある商品をご覧になられた方もおられると思います。そのパッケージを観察すると追記で「加熱殺菌菌体」と書かれているものもあります。菌は、栄養源を摂って増殖する時に、代謝物を排出し、その代謝物で他の菌をやっつけながら、縄張りを広げていこうとします。例えば、乳酸菌が他の菌と勢力を争う時に、この代謝物があれば、例え菌自体は死んでいても他の菌を殺すことができるのです。
今回使われているのは、スプレードライの粉末です。これには代謝物が十分含まれています。ヨーグルトをスプレードライして濃縮している状態ですから、含まれる代謝物の割合も飲むヨーグルトより上がっています。そういうものを使っている食品を定期的意識的に摂ることで、口の中の悪い菌が死んで良い菌が増えやすい環境ができるわけです。L8020乳酸菌の生菌を与えてなくても、代謝物によって悪い菌が減ってスペースができます。そこで良い菌が増えていく。最近食品工業で乳酸菌を使うときに、こういう代謝物を含めて菌を使う新しい形のプロバイオティクスという考え方の食品が増えてきたと思います。
口腔環境の健康度は、人類の健康な暮らしに繋がっている
僕が考えるに、口は健康の入り口です。健康寿命は、健やかな口に寿命で「健口寿命」と書くべきだし、言うべきなんじゃないでしょうか
そして、口腔環境にとって笑顔でいることは本当に大切です。コロナ禍でマスクを日常的に使う状態になっていますよね。今ちょうど研究中ではありますが、口の中の環境が変化していくのではと考えています。マスクで表情、特に笑顔を作る機会が減り、顔筋が衰えていきます。人と喋ったり笑ったりして、顔の筋肉が動くことで唾液が口の中に行き渡り、まんべんなく潤している状態になります。いわゆる自浄作用のように、口の中を唾液で洗っているような状態です。
口内が健康な状態にあると、心身ともに健やかだと思うのですが、例えばお正月の光景を想像してみてください。お正月にたくさん人と会って目一杯笑う。コロナ禍では難しいかもしれませんが、歯がなかったら人前で口を開けて笑うの、恥ずかしいですよね。いろんな人が集まってワイワイ話す時も、例えば前歯が全部なければ、フガフガして相手に聞き取ってもらえないから、話すのを少し遠慮してしまいますよね。電話でも聞き取りにくい反応をされたりします。そうすると人はだんだん喋らなくなります。
ということで、歯があることは、楽しい生活に繋がっているのです。美味しいお肉だって奥歯がなかったら噛めないですし、どんな美味しいものでも、よく噛んで味わって食べて味わえるからこそ美味しいのです。多くの人と会話して、笑いそして食べる、そういう楽しみは全て口から入ってきます。だからこそ口が、そして口内が健康であることが、健康な生活の源の一つであると思います。
そして、人と楽しく話すことはストレスを大きく緩和します。これも口が果たすとても重要な役割です。
口は健康に生活するために必要なものであり、人生をより豊かにし、楽しく生きていくために必要不可欠なものです。だからやっぱり、口を通じて美味しい生活、楽しい生活、健康な生活をしてほしいと思います。
ドラッグ・デリバリーとチョコレート
乳酸菌と乳酸菌を含む食べ物、そこで頭に浮かんだのが、「歯に良くない食べ物」のことです。学生時代に履修していた予防歯科学では、歯に良くない食べ物が3つあると習いました。それがなんと、1つ目がチョコレート、2つ目がヨーグルト、3つ目がビスケットだったのです。
この3つの食べ物がなぜ歯に良くないか、そこには共通点があります。甘味物質が長時間口の中に滞留する、というところです。
この「長時間口腔内に滞留する」ということを「ドラッグ・デリバリー」という概念に当てはめて考えると、例えば良い菌を使ってヨーグルトを作れば、ヨーグルトの中の菌が長時間口腔内に滞留できます。そうすると、歯に良くないどころか、逆にとても有利になります。なので、強い乳酸菌の入ったヨーグルトを作りたいと考えたわけです。
同じ発想で、チョコレートが同じく長時間口の中に菌を滞留させることができる食べ物だから、有利なのです。
プラークという言葉を聞いたことがあるという方もおられると思います。プラークは、バイオフィルムという、たくさんの菌がフィルム状になって自分たちを守っている状態のことです。シールドの中で菌がいっぱい育っているようなもので、シールド状態になった上から消毒薬をかけるだけでは、表面の菌がちょっと死ぬだけなので、中の菌は大きな影響はありません。
シールドを破壊するには、歯ブラシで磨いてこのバイオフィルムを壊すのが一番効果的です。そして歯ブラシで磨いた後で、L8020乳酸菌を摂るのが一番中に入りやすくて、効果的です。
歯科医師としての夢
歯科医療全体を考えると、まだまだ発展や改善の余地がたくさんあるかもしれません。
ただ、自分自身が歯科医として研究者として歩み始めからずっと、夢みていることがあります。
僕たちより少し下の世代までは、歯医者さんは嫌いとか怖いというイメージが強いと思います。僕は、歯医者が怖くない、気軽に立ち寄れるところになってほしいんです。
子供が歯医者さんに行って、歯のクリーニングをしてもらって、帰りに歯医者さんでチョコレートや飴とかお菓子を買って帰るような時が来ればいいなと、ずっと思っていました。そういうチョコレートができるということは、歯医者に行く楽しさの実現に近づけるわけですし、本当に嬉しいことです。
メディカレートのコンセプト、メディカレートの目指す未来、時代が必要とするものだと思って、とても期待しています。そしてもちろん、出来上がった製品を美味しくいただくこと、とても楽しみにしています。